Vol.380 2023.5.23

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Column

魅せられて その6

アドリア海、最果ての欧州にありながら自分にとっては憧れの海であった。

ここアンコーナのあるマルケ州より半島のもっと南、アブルッツォ州のあるペスカーラ、そしてオルトーナは、学生時代から大好きだった作曲家、フランチェスコ・パオロ・トスティに縁のある町であって、生涯の長くを英国で過ごすことになる芸術家の描く音楽のベースに、アドリアの海鳴り、そして海からの風を交えた郷愁が感じられる。

アドリア海の見える町に行きたい、という夢は叶った。目の前に広がる海原を眺めながらただ息を呑む。青の色が違う。海も空も日本では見たことのないコントラストである。

もう少し下ろう、というオーナーの呼びかけに止まっていた時が動きだす。海は見えてきたがまだ目的地は下の方にあるらしい。

道も少しだけ広くなる。車道とまではいかない砂利道だが、車が通れるほどの広さはある。一般車の通行は許可されず、業者の車、あるいは緊急自動車の通れるほどの幅、当然すれ違うことはできない一本道なので体を入れ替えるために離合ポイントまで動かなければならない。

傾斜のある砂利道をそのまま下って行くと、掘っ立て小屋のような、しかも平屋ながら、かなりのスペースを持つ建造物が姿を現す。山の上から時間をかけて下って、道といえるような道もないところに突然である。近づくとその中からから騒ぎが聴こえていて、何より美味しそうな匂いが漂ってくる。

リストランテ(レストラン)である。しかも店内に壁はなく、無造作な骨組みで作られた天井はビニールと茅葺でできている。壁がない代わりに木枠が組まれ、そこからは海原が見える。言うまでもなく絶景、潮風の中で食事がとれる極上の“海の家”である。

『Da Silvio』(ダ・シルヴィオ)という名のついたリストランテのメニューはもちろん海の幸がふんだんにサービスされる。ムール貝やボンゴレをワイン蒸ししたもの、魚介盛り合わせの前菜にはじまり、大きなフライパンのままテーブルにドーンと出されるパスタやリゾットは格別である。かなりの量が盛られていることもあり、グリル焼きなどのメイン料理まで辿り着くのは至難の業だ。

200席以上はある広い店内にいて、ほぼすべてのテーブルにデキャンタに入ったハウスワインが置かれている。魚介には白ワイン、とくにここのスパークリングは最高なんだとオーナー。この国、飲酒と運転に厳しい規制が課せられていない。駐車場にはあれだけの車があったのにと、その時まだイタリアで運転をしていなかった自分が緩い規則に首を傾げたのもこの時が最初だっただろう。

かなり酔っぱらった状態で海にでた。太陽が眩しくて、日本とは比べ物にならない紫外線の強さにも驚いた。そしてアドリア海と空の青が、まだ20代だった自分には余程衝撃だったのだろう。

その旅があって、イタリアの夏が欠かせぬものになっている。アンコーナの少しばかり南にある“シローロ”という町が自分にとってのオアシスであることはいまも変わることはない。

堂満尚樹(音楽ライター)
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